Delight Slight Solty KISS 2


 まぁ、その後泣いたか笑ったかはともかくとして、石原医師と松井警視の「お説教」が、さしもの「お子様」の胸をもぐさりと貫き通したのは確かだった。
 とはいえそれですぐさまフランソワーズに告白する勇気など出るわけもなし、かと言って他に取るべき方法なんぞ、考えただけでいっそう頭がとっ散らかるばかりだし(大体コイツがそんな「恋愛の達人」だったら最初から誰も苦労してないはずだしな〜)。
 そんでもって結局、ギルモア邸に帰宅したジョーはシャワーも浴びずベッドにも入らず、ただ一人真っ暗なリビングで夜が更けるまで―いや、明けるまで悶々と悩み続け―。
 家の前に車が停まった音が聞こえたような気がしてはっと我に返れば、夜明けどころかすでにかなり陽の高い時刻となっていた。
「うわ…まずい!」
 もしかして「家族」の誰かが帰ってきたのかとあたふたと玄関に出てみれば、果たしてふよふよ漂うイワンのクーファンを従えたギルモア博士がいかにも重そうな段ボール箱を抱えてえっちらおっちら、門から玄関へと向かってくるではないか。
「は…博士!? イワン!? どうしたんですかその箱! 確かお出かけになるときにはこんな荷物、ありませんでしたよね!? あ…っていうかその前に…『お帰りなさい』…」
「ジョー!?」
 途端、それまでの悩みも何も忘れて玄関から走り出たジョー。しかしこっちはこっちですっかり憔悴しきった顔色は真っ青、その上体からもかすかな汗と酒の匂いを漂わせていたとくれば、博士とイワンの方こそびっくり仰天というものである。
「お…おいおい、どうしたって…そりゃこっちの台詞じゃわい。一体何じゃ、その顔色は…それに…」
(マサカ、僕タチガイナイ間ニ…何カアッタ?)
「あ…ううん、こっちは別に…それにしても何なんですかこの箱は?」
 一瞬たじろいだものの、すぐまた箱を指差したジョーに、ギルモア博士が苦笑する。
「あ…む…いやそれは、例によって藤蔭君から借りた資料を少々溜め込んでしまったとコズミ君が気にしていたもんでな。まぁ、どっちかと言えばうちの方が彼女の家にも近いし、君たちもいることじゃでこちらから返しておこうと預かったのを、イワンのテレキネシスに助けてもらってわしがここまで持ち帰ってきたんじゃが…」
「藤蔭…先生!?」
 途端、ジョーの頬にぱっと朱の色が差す。
「だったら僕、これからすぐに届けに行ってきます! コズミ博士も気にしていらしたんなら一刻も早くこの資料、お返ししなくちゃ…」
「あ、これ! 待てジョー!」
 言い終える間さえもどかしげに早速箱を抱え上げようとしたジョーを慌てて押し止めたギルモア博士が、何とも困惑した表情で口ごもりつつ。
「あのな、ジョー…行くのは全然構わんが、せめて何か腹に入れて…ついでにシャワーも浴びてからの方がよくはないか? あの…むぅ…言っちゃ悪いがお前、かなり…酒と汗の匂いがキツイぞ?」
「あ…!」
 かくて今度は風呂場に向かって猛ダッシュ、熱いシャワーを浴びたあと有り合わせの食べ物でとりあえずの腹ごしらえをしたジョーは、後片づけが終わるやいなや脱兎のごとくギルモア邸を飛び出した。目指すはもちろん、藤蔭医師宅である。
 フランソワーズとの恋愛相談など、ギルモア博士やイワンはもちろん、他の仲間たちにだって気恥ずかしくてできたものではない。しかし藤蔭医師ならば話は別というもので。
(何てったって藤蔭先生は石原先生や松井さん以上の大人だし、それに僕の「お姉さん」というか、「お母さん」…みたいな存在だし)
 先程とは少々別の意味でぽうっと顔を赤らめたジョーはそのまま順調に車を飛ばし、ほぼ一時間後には無事藤蔭家へと到着した。
「島村クン、いらっしゃい! いつもお使い、ご苦労様」
「ジョーしゃぁん、待ってまちたでち〜♪」
 インターフォンを鳴らせばすぐさま迎えに出てきてくれた藤蔭医師とパピ。ジョーの顔に、ほっと安堵の表情が浮かんだ。

 だが…。
「はい、お待たせ。島村クンは確か、カフェオレ風のコーヒーが好みだったわよね。ミルクたっぷり、入れておいたわよぉvv」
「あ…ありがとうございます。…いただきます」
 持参した段ボール箱を二階の藤蔭医師の部屋まで運び込み、ようやく応接間にゆっくり腰を落ち着けた途端、ジョーの口と舌はまるで動かなくなってしまったのだった。
 確かに、藤蔭医師は自分にとって姉か母親のような存在である。そしておそらく彼女もまた、自分のことを弟か息子のように思ってくれていることだろう。
 しかし、それを言うならフランソワーズも同じことで。
 自分が「弟か息子」ならフランソワーズは間違いなく「妹か娘」、となればいかな姉、あるいは母といえどもそうそう自分の肩ばかり持ってくれるという保証はない。むしろ同じ女性同士である分、よりフランソワーズの方に同情されて昨夜以上に厳しいお説教を喰らったり、最悪の場合には「とんだ優柔不断のドラ息子」と軽蔑される可能性だって大いにある。それを思うとついつい口ごもり、何も言えなくなってしまうジョーなのだった。
 だがそんな逡巡に気づかない藤蔭医師ではない。
「…? どうしたの、島村クン。貴方、今日ちょっと変よ?」
 すい、と細くなった黒曜石の瞳に見据えられ、ジョーがびくりと硬直したそのとき。…突然、廊下から電話の音が響いてきた。
「あら…? ちょっと失礼」
 言い置いて藤蔭医師が出て行った途端、ぐったりとソファにもたれ込んだジョー。こうなると、もれ聞こえてくる藤蔭医師の明るく屈託のない声さえも恨めしい。
(はい、藤蔭でございます…って、瞳子!? なぁに、貴女いつ日本に帰って来たのよぉ!)
 いまだソファに轟沈したまま、少年は小さなため息をつく。…と、先程飼い主にくっついて出て行った三色毛玉がまたとてとてと部屋に戻ってきた。
「あの…どうやら今のお電話、ママの高校時代のお友達かららちいの。だから…もちかちたら五分か十分お待たせちちゃうかもでち。めんちゃいね、ジョーしゃん」
 だがそこでぺこりと下がった小さな頭を見た刹那、ジョーの脳裏にある事実が閃いたのである。
(そうだ! 考えてみればパピちゃんだって立派な成犬のオス…じゃなかった、大人の男じゃないか! もしかしたら男同士、何かいい助言をしてくれるかも…)
 そう思ったときにはすでにパピの前、床に直接正座をして手をついていた青少年。
「パピちゃん! 実は君に折り入って相談があるんだけど…。あ…あの、さ。君、これまでに好きなメス犬…じゃなかった、女の子に告白したことってある?」
「はぁ!?」
 思いもかけない質問に一瞬目を点にしたパピだったがそこはそれ、「世界最凶」とも言われる腹黒わんこだけあって頭の回転はそんじょそこらの人間どもよりよっぽど早い。
「いきなりなぁに、ジョーしゃん…。もちかちて、フランソワーズしゃんと何かあった?」
「ええっ!? どうしてわかったの!?」
「しょんなの、誰にだってわかりまちよ」
 今度はこちらが目を白黒、飛び上がらんばかりのジョーにぴしゃりと言い返したチビ犬が、何故かそこで大きなため息をついた。
「はぁぁぁぁ…にちても困りまちたねぇ。よりにもよってしょんなことをボクに訊くなんて、一体何考えてるんだか。…ねぇジョーしゃん、ちょっとしょこに座ってちょうだい」
 自分もきちんとお座りをしたその前の床を可愛らしい右前脚で指し示され、素直にそこに正座し直すジョー。それを見たパピが再度小さなため息をもらす。
「あんねぇ…経済学や金融問題に関しゅる一般論ならともかくも、れっきとちた人間である貴方がボクみたいなチビわんこに大事なプライベートの、しょれも恋愛相談なんかちてどうしゅるんでちか。お願いでちから、ちょっとは人とちての尊厳ってモノを考えてちょうだいな…大体、ご存知のとおりボクたちわんこの『恋の季節』は一年間にたった二回ちかないんでちよ? つまり恋愛サイクルが人間しゃんのしょれとは全く違っているわけで…となれば当然恋愛感覚や恋愛作法もまるっきり別モノ、しょんなわんこ―ボクの体験談をいくらお話ちたところで、人間であるジョーしゃんには何の参考にもなりまちぇん。よってこのご相談は最初から不成立! 以上、証明終わりでち」
「え〜、そんな…パピちゃん…」
 あっさりかつ手厳しく断られて泣きそうな声を上げたジョーを、つぶらな黒い瞳でじろりと睨んだチビ犬がにべもなく言い放つ。
「人間しゃんのご相談はやっぱ人間しゃん同士、覚悟を決めて何もかもウチのママにお話しゅるんでちね。ジョーしゃんだって、どーせ最初はしょのつもりだったんでしょ?」
 そして、その言葉が終わるか終わらないかのうちに。
「ごめんなさいね、すっかり長話しちゃって…あら? 二人ともどうしたの?」
 電話を終えて戻ってきた藤蔭医師が、床に座り込んでいるジョーとパピを見て怪訝そうな顔になった。そこへすかさず走り寄る三色毛玉。
「あんね、ママのお電話中、ジョーしゃんがボクと遊んでくれてたの。でね、ジョーしゃん、ママにちょっとご相談があるんでちって」
「え…? どうしたの島村クン。何かあった?」
 足元の飼い犬を抱き上げつつ、こちらに笑顔を向ける藤蔭医師の腕の中、パピがかすかな―おそらく、サイボーグでなければ聞き取れないくらいの―威嚇の唸り声を上げ、「ここでしらばっくれたらただじゃおかん」とばかりにちらりとその小さな牙をむき出す。…もはやこうなっては、素直に洗いざらい告白するより他、残された道はなかった。

「へぇ〜。石原クンと松井さんに? それにしても、ビールだのブランデーだのグラスだの、さすが酒飲みのお説教ね…って、私も決して人のこと言えないけど。あっはっは〜」
 全ての話を聞くやいなや、藤蔭医師はさも面白そうな笑い声を上げた。幸い軽蔑されたような気配は微塵もないものの、次の瞬間その表情がふと真面目になって。
「だけど、二人がお説教したくなった気持ちはよくわかるわ。…もっとも、彼らと同じ話を今ここで繰り返す気はないけど。そのかわり、ちょっと質問させてね。島村クン、正直な話貴方はビール派? それともブランデー派?」
 唐突に訊かれて一瞬ジョーは言葉に詰まってしまったが、すぐにそれが昨日の例え話についての質問だと気づく。
「あ…あの…どちらかと言えば今は…ブランデーの方がいいかなって…あの…そりゃぁいつかはビールも、って気持ちがないといえば…嘘になりますけど」
「ふむ、中々素直でよろしい。じゃ、もう一ついいかしら。今の貴方がブランデー派なのは相手がフランソワーズだから? それとも昔からそういう主義だったのかな?」
 今度は少々、答えに時間がかかった。
「えと…多分それは相手がフランソワーズだからだと…思います。実は僕、まだ中学生の頃同じクラスの女の子に片思いしたことがあったんですけど…そのときはその子に僕だけを見てほしくてわざとちょっかいを出したり、他の男子生徒がその子と話したりしているとものすごく腹が立ったりもしました。…もちろんフランソワーズに対してだってそんな気持ちが全然ないとは言いませんけど…でも今はそれ以上に、自分の気持ちなんかより彼女自身の方が…その笑顔や幸福の方がずっと大切だって気がして…。だから、その…中学の頃の女の子相手だったら一気に飲み干してしまうかもしれないけれど、フランソワーズには決してそんなことできない、しちゃいけないんだって…思って…」
 そこでとうとう絶句してしまったジョーの顔はもう、ゆでだこのように真っ赤である。
「…成程ね。つまり、貴方のフランソワーズに対する想いは『本物の愛』ってわけだ」
 大きくうなづいた藤蔭医師の膝の上、パピまでもがうなづくかわりに大きく尻尾を振っている。しかしジョーには、その言葉の意味が今一つぴんとこない。
「本物の…愛?」
 訊き返したジョーに、藤蔭医師は再度はっきりうなづいてみせる。
「そうよ。自分の恋や気持ちはどうでも、ただ相手の幸福だけを願う―本物の愛情っていうのはそういうものなの。それに比べたら、中学の頃の貴方がクラスの女の子に抱いたのは単なる子供の欲望―独占欲にしか過ぎないわ。とはいえその独占欲を愛情と勘違いしてる連中は大人になっても結構多くてね。だから、男と女の間には何かと諍いが絶えないのよ。貴方が成長して自ずとそうなったのか、それとも相手がフランソワーズだからそう思えたのか…どちらにせよ、今の貴方くらいの年齢で『本物の愛』に気づける人間なんて滅多にいないわ。その点、貴方は本当に幸運で…そして立派よ、島村クン」
「え…え、そんな…」
 母とも慕う藤蔭医師に思いがけない賞賛の言葉をかけられ、ついつい有頂天になるジョー。しかしそこで、何故か藤蔭医師は小さく肩をすくめて。
「ただ『過ぎたるは及ばざるが如し』…ってのもこれまた真実だからねぇ。さっき、石原クンたちと同じお説教を繰り返すつもりはないって言ったけど…あのグラスの例え話にだけはほんの少し補足させてもらうわよ」
 言いながらつと飼い犬をソファの隣に下ろしたその体が、ぐっと前へと乗り出してくる。
「貴方の目の前にあるグラスはただ手に取ってもらうのを待っているだけの『モノ』じゃない。ちゃんと自分の頭で考え、自分の足でどこへでも行くことができる『人間』なのよ? つまり、貴方がいつまでも遠くから眺めているだけなのは貴方の勝手だけど、あんまり長い間放っておくと、誰かがグラスを取り上げる前に、グラスの方で貴方に愛想尽かして他の人のところへ逃げてっちゃう可能性も充分あるってこと」
「そっ…そんなぁ…」
 途端、ジョーの何とも情けない声が響いた。先程「幸運」だの「立派」だのとすっかり持ち上げられたあとだけに、落っことされたときの衝撃はおそらく昨夜のそれをはるかに上回るものだったに違いない。その鼻の先を、テーブル越しに伸びてきた白くて細い指がちょん、とつついた。
「あはは…何だかんだ言ってやっぱり貴方、グラスを他人に取られるのは嫌なんじゃない。ただ、自分が手に取るにもまだ少し距離があるような気がする…って、要はそんなトコかな。だったらその距離を縮めることから始めればいいじゃないの。たとい『本物の愛』だろうが何だろうが、ときには策略も必要だし…その手の手段ならいくらでもあるわ」
「ほ…本当ですか!?」
 ぱっと頬を紅潮させたジョーもまた、同じように身を乗り出す。そして少年と女医は今にも触れんばかりのところまで顔を近づけて。
「いい? まずはとにかく、フランソワーズへの気持ちを素直に表情や態度に表すことから始めなさい。ポーカーフェイスや照れ隠しは絶対禁止。彼女に何かしてもらったら『ありがとう』、彼女の料理が美味しかったら『美味しいね』、彼女が嬉しそうにしていたら『よかったね』…そんな当たり前の言葉を心のとおりに口にする、それが第一歩よ。あともう一つ、たといどんな些細な問題でも彼女が困っているときには必ず『自分から』手を差し伸べること。頼まれてからの手助けならば誰にだってできるけど、言われる前に自分から動き出すのは彼女を本当に愛して、大切に思っている人間にしかできないからね。…なーに、断られたら断られたでそのときには一歩引いて、静かに見守っていればいいの。大事なのは彼女を甘やかすことじゃなくて、いつでも彼女を見守り気遣う貴方の眼、そして気持ちなんだから。それにフランソワーズが気づいてくれたらしめたもの、二人の距離はぐっと縮まるはずだわ。それから先はまた別の手段を考えるとして、とりあえずこれくらいならどんなに恥ずかしがり屋で口下手な日本男児にだってできるでしょ?」
 わずか十数センチの距離から自分を見つめる漆黒の瞳に、茶色の瞳がはっきりとうなづいた。
「はい! 藤蔭先生! 僕…今日からすぐにやってみます。ありがとうございました!」
 そしていかにも嬉しげに頭を下げた「日本男児」に、藤蔭医師とパピもまた満足そうな笑みを浮かべてうなづいたのであった。



 …さて、その次の夜のこと。
 ギルモア博士から藤蔭医師に、資料を一冊返し忘れたとの電話が入った。何でもたいそう面白そうな本だったのでついつい帰りのタクシーの中で読みふけり、家に着いて車から降りる際にうっかり手持ちの鞄の中にしまってしまったのだという。
(いやはや、全くもって面目ない。もし必要ならすぐにまた、返しに行くから…)
「そんな、先生…! 一冊だけでしたら今度私がお伺いした折にでも持って帰りますから…ええ、ええ、いつでも結構ですのでどうかくれぐれもお気になさらず…」
(おお、そう言ってもらえるなら助かるわい。すまなんだのう、藤蔭君)
 受話器の向こう、いかにもほっとした口調になったギルモア博士。しかしそれから何故か急に声をひそめ、ひどく言いにくそうな様子で…。
(ところで君…昨日、ジョーに何か…言ったかね?)
「は?」
(いや、昨日君の家から帰って―というか今日フランソワーズが旅行から帰ってきて以来、やけに張り切ってその手伝いを始めてのう…うむ、そりゃぁ甲斐甲斐しいことこの上ないんじゃが、何と言うか…その…ほれ、あの子もそうそう家事に慣れておる方ではないもんでなぁ…)
 …と、言ってるそばからその声にかぶさって聞こえてきた派手な破壊音。
(おっ…おいジョー、どうした! 今度は皿か!? それとも茶碗か!? …ああもう、フランソワーズもそんなに慌てて片づけなんぞせんでいいから! いくら君たちといえど、そんな破片だらけの床を素足で歩いちゃいかん! 今わしが掃除機を持ってくるから、それまで動くんじゃないぞ、いいな!)
 そしてまた、元の小声に戻るやいなや。
(あっ…あの…緊急事態じゃで今日はこれで…! 重ね重ね、本当にすまんっ!)
 それきりこちらの返事も待たず、がちゃりと切れてしまった電話。さすがに茫然としてしまった藤蔭医師の脳裏に、ジョーに関するデータがめまぐるしく点滅する。
「…推定知能指数一五〇以上…理解力、洞察力、判断力決断力その他モロモロ、全て平均よりはるかに優秀なはず…なのに…。どーしてこの手のことになるとここまで能無しというかドンくさいというか、使えなくなっちゃうんだか…」
 つぶやいているうちに軽いめまいを覚えた女医の体がぐらりと揺れる。そして…。
「お医者しゃまで〜もォ草津ゥ〜のォ湯でもォ、ハァドッコイチョ〜♪ 惚れた病ィ〜はァコォ〜リャ、治しゃァちぇぬよ、チョイナ、チョ〜イナ〜♪」
 そのまま電話機の傍らにへたへたと座り込んでしまった飼い主の後ろ、これまたひたすら「草津節」を歌い踊るしかない飼い犬の姿があった…。
 
へたる飼い主、踊る飼い犬(笑) 27KB




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