スカール様の憂鬱 〜決算編〜 1
ご注意
「もう二度と書くな」という皆様方からの声なき声、そして「自分で自分のサイトをつぶす気か」という己が良心のささやきにも逆らって、またしても書いてしまいました「企業人スカール様シリーズ第二弾」!
えー、今回の管理人は前作以上に壊れております。ついでに、我が身も捨てております。なのでこれ、前以上に嘘八百、現実世界とは何ら関係のない妄言戯言のオンパレードとなっておりますので、ご覧になる方はさらなる覚悟を決めた上で挑戦なさって下さいませ(邪笑)。
当然、作中にて某キャラが申しております「大企業の常識」「経営陣のたしなみ」等も真っ赤な大ウソでございます。
「この物語は完全なフィクションです。実在の個人・法人・団体には一切関係ございません」
どうかこの言葉を決してお忘れにはなりませんように。そして万が一ご不快になった場合にはそのままさり気なくスルーして下さいますよう、管理人、伏してお願い申し上げます。
「春はあけぼの」。そう、暗く長かった冬が終わり、暖かい陽射しに誘われて小さな草の芽がおずおずと顔を出すこの季節こそ、夜明けの曙光のごとき希望の光が射し初める、心浮き立つ時期であることには間違いございません。
ここ、太平洋Xポイント―BG秘密基地にもまた、春の恵みは分け隔てなく訪れたはずだったのですが、しかし。
生きとし生ける物の全てが命の喜びを存分に享受するその季節のまさにしょっぱな、かの偉大なるBG団総帥スカール様に牙を剥いて襲いかかった「確定申告」という名の過酷な試練、そしてその強大な敵に少しも臆することなく立ち向かい、見事難局を乗り切られたスカール様のご活躍は、すでに皆様にもお話しした通りでございます。
ところがどっこい、これで全てが終わったわけでは決してないのでございました。何故ならこの春という季節、確定申告のあとには決算及び株主総会、そして法人税納付という難行苦行が目白押しに待ち構えているという―企業人にとっては大層頭の痛い季節でもあるからなのです…。
※ とってもキビシイ日本の税法よりほんの一部抜粋(読み飛ばし推奨♪)
内国法人(…省略…)は、各事業年度終了の日の翌日から2月以内に、税務署長に対し、確定した決算に基づき次に掲げる事項を記載した申告書を提出しなければならない。(法人税法第74条)。
第74条第1項(確定申告)の規定による申告書を提出すべき内国法人が、会計監査人の監査を受けなければならないことその他これに類する理由により決算が確定しないため、当該事業年度以後の各事業年度の当該申告書をそれぞれ同項に規定する提出期限までに提出することができない常況にあると認められる場合には、納税地の所轄税務署長は、その内国法人の申請に基づき、当該各事業年度の申告書の提出期限を1月間(…省略…)延長することができる。(法人税法第75条の2)
よーするに、「事業年度が終ったらそれから二ヶ月以内にちゃっちゃと決算終らせて法人税払えっつーんだよっ。でかい会社だったら決算結果もしっかり会計監査受けとかんとただじゃおかねーぞ、コラ! …何? 監査受けてたら二ヶ月以内に払えねぇだぁ? ちっ、しゃぁねーな。それじゃもう一ヶ月待ってやっか、ケッ」てなことが法律で決まっているわけでございまして…(いや待ていくら何でも日本の法律、ここまでガラ悪くないからっ→自分)。
結果、とうに春の盛りも過ぎ、そろそろ初夏の便りも聞こえてくるというこんなときになってもまだ、スカール様の試練は終っていないのでございました。
それでは早速、我らがスカール様の新たなる戦いの様子をのぞいてみることに致しましょう。
「ふーむ…。ほぉ…。なるほどな」
すでにおなじみの総裁執務室に閉じこもり、難しいお顔で山積みの書類とのにらめっこをお始めになってから、どれくらいの時間が過ぎたというのでしょうか。おいたわしいことに、いつもはつやつやと黒光りなさっているそのドクロ仮面さえ、少々おやつれあそばしているようでございます。しかしながら「確定申告編」でも申し上げた通り、BG直営会社五百社の代表取締役社長を勤めるこの方にとってはこれも決して避けて通れぬ宿命というものなのでした。
ただし今回におけるせめてもの救いは、決算及び法人税納付があくまでも各社の問題、ぶっちゃけて言えば個人としてのスカール様、いえいえ、実業界にその人ありと知られた大企業家「ボン・ボラボッチ氏」にはまるっきり関係のない事柄だということでしょうか。本来ならばそんなモン、全て各社の経理部員、及び全国に点在するBG支部の担当者が過労死覚悟で立ち向かえばいい話ですし、事実本年度も何十人かの経理マンあるいは経理ウーマンが名誉の戦死…じゃなかった、過労死を遂げたようですが、それならそれで雀の涙ほどの弔慰金でも払っとけばそれで済むこと、別にスカール様にとっては痛くも痒くもございません。
おまけに何せ五百社、何せ世界中(おお、久々に出たなこの言い回しっ)ともなれば日本以外に拠点を置いているところも多うございます。さらには日本の会社にさえ各社それぞれの「大人の事情」もあること、その決算時期ってやつもやはり、微妙にずれてたりして。
もちろんその中でも三月九月決算の会社はかなりの割合を占めているのですが、それでもその数はせいぜい百五十から二百といったところ、直営会社全体からみればごく一部にしかすぎません。
そりゃぁ、これらの会社にとってのスカール様=ボン・ボラボッチ氏といえば監査法人よりも株主よりも恐ろしい企業内絶対権力者でございます。正直、法律上の手続や株主総会での承認なんかよりこの方の決裁印を頂戴することの方が遥かに重要―というのが各社経理担当役員の人知れぬホンネというものでございましょう。となれば各社の決算終了と同時にスカール様のもとには郵便あるいは宅急便で大量の決算書類が送りつけられ、巨大なピラミッドを築くことになるのは致し方のないこととはいえ、それでもやはり、あの三月の悪夢「確定申告」のように、世界各国五百社分の資料が大挙して押し寄せてくるなんてぇ悲惨な状況に比べればかなりマシな作業のはずだったのでございました。
ですが人間、一寸先は真っ暗闇。
「おい横山っ! コーヒーッ」
いつものくせで、スカール様が背後に向かって鋭い声をおかけになりました。しかし残念ながら、それに対する返事はどこからも聞こえて参りません。
「あ…そう言えば、そうだったのだな…」
いくぶん寂しげに、スカール様は首を振ります。そう、実は今、スカール様の第一秘書、同期の出世頭でもある横山くんはしっかりきっぱり、出張中だったのでした。
いかな超人的頭脳、そして体力及び戦闘能力を誇るスカール様にとっても、百数十社におよぶ日本国内直営会社の決算資料全てに目を通し、綿密緻密に分析するというのは至難の業でございます。となれば、所詮最終的に決断を下すのはスカール様ご本人と言えど、それ以前にある程度のチェックを入れ、その思し召しに沿うよう各社を指導してくれるお目付け役がいれば、どんなにありがたいことでございましょうか。
そこで白羽の矢が立ったのが横山くんだったのでございます。かの憎っくき宿敵00ナンバーの「加速装置」をTV学習でしっかり身につけた類まれなる才能を、今や不動のものとなった特殊能力コミで見込まれた彼は昨秋めでたく裏資金管理部にスカウトされて「スカール様第一秘書兼裏資金管理部長付特命係長」の肩書きを押しつけられ、この冬一杯をかけて「あの」シロオスラシ会計大佐直々に商業簿記及び工業簿記、そして商法税法企業会計原則の全てを骨の髄まで叩き込まれた挙句、今はその加速装置と会計知識をフルに活用して直営会社の実務指導に出向いているのでした。
もちろんそれを命じたのはスカール様ご自身でいらっしゃいますが、信頼厚い第一秘書兼ウェイター兼おさんどん兼ヒマつぶし兼ストレス解消用サンドバッグ兼どつき漫才の名相方である横山くんが不在では、時折こんな、何ともいえない寂寥感を感じてしまうのも仕方のないことでございましょう。
(いやしかし、あいつを出張に出したのは他ならぬこの俺、今さら寂しがっても仕方がないことだ…)
心の中でそっとつぶやき、再び書類に目を戻したスカール様。その潔さと自制心、そして我慢強さはさすが、あれだけの大組織を率いる総帥ならではのご人徳でございます(涙)。
(それに…今の俺にはこいつもおるからな)
ドクロ仮面の口元を軽くほころばせたスカール様の視線が、ふと書類からそれました。
と、その眼差しの先には―。
執務机の片隅にちんまりと置かれた篭。とはいえそのサイズは五〇センチ×四〇センチほどのいびつな楕円形、しかも深さは二〇センチほどでございます。BG総帥の執務机ほどの大きさがあるからこそ大して気になりませんが、まぁ…ちょっと気軽にどこにでも置けるサイズではありますまい。
その篭の中にはふっかふかの羽根布団…もとい、最高級の羽毛を詰めたクッションが敷きつめられております。これでこの中にあどけない赤ん坊でも眠っていたらさぞかし可愛らしい眺めなのでしょうけれども。
ですが五〇センチ×四〇センチの楕円形では、さすがにゆりかごとしては小さすぎる気も致します。たとえ生まれたての赤ん坊でさえ、こんなベッドに寝かされたひにゃ、たちまちその窮屈さに抗議の泣き声を上げるに違いありません。
それに、その篭の中。ふかふかクッションに埋もれながらもぴょこんと飛び出しているのは―。
クッションに負けないくらいふかふかの茶色い毛皮に覆われた、どう見ても人間のものとは思えない大きな三角形の耳だったりしたのでございました。
いくらかお疲れだったのでございましょうか、そのまま何ともなしに篭をじっと見つめ続けていたスカール様の目の前で。
その大きな耳が、ぴくりと動きました。
「あ〜ぅお〜ん」
あくびとも唸り声ともつかない小さな声とともに、篭の中で何かがもぞもぞと動き始めました。そしてたちまちクッションから這い出し、籠の縁にちょこんとお手々―いえ、前脚をかけてじっとスカール様を見つめ返したのは―。
茶色のデカ耳、そして漆黒のくりっとした目、同じ色の小さな鼻も愛くるしい一匹のチビ犬だったのです―。
「おお、おお、パピや…。目が覚めちゃったか? 俺のつぶやきが大きすぎたか…悪かったなぁ」
あたふたと伸ばしたスカール様の指先を、チビ犬、恐れ気もなくぺろりと舐めます。
「そんなことないでちよ、ご主人様。ボクもう充分お昼寝して、自然に目が覚めただけでち」
「おお、お前はいつも優しいなぁ…。そーかそーか、お昼寝は終ったか…だったらこれから存分に遊んでやりたいのだが…実はまだ仕事が終ってなくて、そういうわけにもいかんのだ。…お前にとってはさぞ退屈だろう。おんもに遊びに行くか? どーする?」
今にもとろけそうな声で話しかけたスカール様の指先を、チビ犬はもう一度ぺろりと舐めました。
「そんなに気を遣わないでちょうだいでち。ボクはご主人様のそばにいるのが一番嬉しいでちから、このままお仕事見ていたいの。…いいでちか?」
小さな頭をかすかにかしげてそんなことを言われたら、スカール様にとってはまさにツボ中のドツボを千枚通しで一突きにされたも同然でございます。
「うおおおぉぉぉ〜っ! パピよおおおぉぉぉっ! お前は何て可愛い犬なんだあああぁぁぁっ! ああもう、いくらでも見てていいぞ。だがな、ちょっとでも退屈したらすぐに言えよ。いつでも、外に遊びに出してやるからな…」
「あんがとでち。ご主人様」
籠の縁に前脚をかけたままのポーズでいかにも嬉しそうに目を細められては、スカール様はもう完全にメロメロでございます。
「ふおおぉぉぉ〜っ! パピよおおおぉぉぉっ!」
今やチビ犬に抱きついて号泣するスカール様のお耳にしっとりとした黒い鼻が触れたと見るや、遠慮がちな、それでいてきっぱりとした声がはっきりと響いたのでございました。
「ご主人様…。いつも可愛がってくれてあんがとでち。…でも今は、早くお仕事終らせちゃいましょうよ。…でもって、ボクとたくさん、たくさん遊んでちょうだいでち」
「うん…お前の言う通りだな、パピや…。それではこれから、目一杯集中してすぐに仕事を終らせるからな、待っていろよ」
「はいでち」
そこで再びにっこりと見つめあった主人と犬。しかし、一体このチビ犬(どうやらパピという名前らしい)、一体どこのどいつなのでございましょうか…。